2008年7月4日金曜日

猥雑空間

飛騨高山 ピッキン
「THE HOBO JUNGLE TOUR 2008」
【出演】山口 洋(HEAT WAVE)&リクオ
 高山には前日入りして、日中は山口と自転車を借りて街を散歩。オレが高山に来た際に、よく行く大黒屋という蕎麦屋へ山口を連れてゆく。やはり、ここの蕎麦はうまい。
 この日の高山も、かなり蒸し暑かった。日が暮れても、思った程気温が下がらない。そう言えば夏の高山に来たのは始めてかも。

  この日のライブ会場であるピッキンのマスター、高原さんと話をしているうちに、自分がピッキンに通い始めて今年で10年になるということが判明。そうした ら高原さんが10周年を記念して、ライブを観に来たお客さん全員にビールを1本ずつ振る舞う太っ腹サービスを展開してくれる。2部が始まる頃にはお店に あったビールがすべてなくなる。
 2部は自分のソロステージから始まったのだけれど、1部に比べると、明らかにお客の酔いが回っていて、随分と砕 けた、猥雑な雰囲気に変化していた。こういう場でのライブは、自分はめっぽう得意な方だとは思うのだけれど、曲調やパフォーマンスはある方向に偏る。内省 的なバラードや1対1の曲調を続けても、あまり長くは集中して聴いてもらえないから、客席参加型のリズムのある曲調や、宴会芸的なパフォーマンスに走りが ちなんである。そうすると客席はいつも以上に盛り上がる。ただ、そういう状況で、どうやって歌心を伝えるかである。
 多分、自分が影響を受けたヴ ギウギやブルースが育まれたバレスハウスやホンキートンクと呼ばれていたような黒人居住区に存在した安酒場の雰囲気は、この日の猥雑さと共通しているのだ ろう。そういう空間の中でお客は、酒に酔い、多いに盛り上がり、体を揺らしながらも、演奏の中に含まれる切なさを共有していたに違いない。
 この 日のお客さんは、山口とオレのコアなファンと呼べるような人は少数派であったと思う。山口にとってはピッキンでのライブは始めてだから、アウェー感もあっ ただろう。自分には、こういう場でのライブにこそ、THE HOBO JUNGLE TOURの意味の一つがあるように思えた。
 こういう現場では、いつもより体力を使うけれど、自分の中のワイルドネスが余計に呼び覚まされる感じで、普段のステージ以上の開放感がある。客との掛け合いも面白い。ライブが進むにつれて、自分のMCも演奏もどんどんガラが悪くなっていった。
 2人のライブで客がスタンディングになったのはこの日が始めてだろう。お客もそれくらに解放されていたと言える。けれど、アンコールに至って客席はもはや、じっくりと音楽を聴くという体勢にはなかった。
 山口が最後のフレーズを歌おうとしたまさにそのときに、酔った客のしゃべり声が山口とオレの耳に入った。その瞬間、山口は歌うのを止めた。その場に緊張が走る。
 自分は演奏を止めず、小声で山口に「ONE MORE」と合図して、最後のフレーズをもう一度ピアノでリフレインした。山口がラストのフレーズを歌い直し、ライブは終了した。
 とても生々しい現場だった。

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