2014年2月23日日曜日

ソロアルバム「HOBO HOUSE」発売に寄せて

ソロアルバム「HOBO HOUSE」が一般発売になりました。3.11以降にリリースする初のオリジナル・ソロルバムということもあり、特別な感慨があります。
このアルバムの最初のレコーディングセッションが行われたのが、2011年の7月。その後、コラボ・ライブアルバム「HOBO CONNECTION VOL.1」、MAGICAL CHAIN CLUB BANDの1st.アルバム「MAGICAL CHAIN CLUB BAND」のリリースを挟んで、作品の完成までには随分と時間を要しました。
ここまで、時間がかかってしまったのは、やはり3・11の影響が大きかった。あの出来事とそれ以降の社会の変化によって、ソロアルバムの内容を考え直さざるを得なくなりました。3.11以降の自分のスタンスが表れた内容にしたいと思ったんです。なんて言い方をすると、少しかた苦しいイメージをもたれてしまうかもしれませんが、今回のアルバムの中では、具体的な何かに反対を表明したり、アンチテーゼを掲げようという気持ちはなかったんです。
曲を書いたりアルバムを制作する上での動機には、ストレス、怒り、閉塞感といったネガティブな感情が存在しましたが、その思いをストレートに表現しようとは思いませんでした。今の世の中に閉塞感、息苦しさのようなものを感じるからこそ、柔らかく風通しのよい作品にしたかった。敵をつくって2項対立を深めようとする流れがあるからこそ、そういう殺伐とした空気から離れたい、社会から少し距離を置いて、旅人の視点からの歌をアルバムにおさめたいと考えました。他者との繋がりを求める普遍的なラブソングも歌いたかった。世の中のやな空気にチャンネルを合わせ続けたくなかったんです。

今回のアルバムの共同プロデューサーの笹倉慎介くんは、現在32歳の才能あるシンガーソングライターです。録音場所となった埼玉県入間市の米軍ハウス街にあるスタジオ、グズリレコーディングハウスは、彼が運営するスタジオです。慎ちゃんがこの木造の古いアメリカンハウスに越してきたのが2007年。以前から、この街と縁のあった僕は、越してきたばかりの慎ちゃんと知り合い、以来、交流を深めてきました。
元々、住居として使われていた空間を、彼は自らの手で、こつこつと時間をかけてリフォームし、機材を揃え、この場所で自身のアルバムを制作するだけでなく、レコデーィングスタジオとして一般にも開放するようになりました。通常のスタジオの密閉された空間ではなく、周囲に緑が多く、日中は自然光が入る心地よいオープンな空間で、時間をかけてレコーディングはすすめられました。このスタジオと慎ちゃんの存在なくして、今回のアルバムは成立しませんでした。

多分’0年代後半くらいから、自分よりも若い世代と交流し、自分とは違った感性やその暮らしぶりに触れることで、水面下で時代の価値観は既に変わり始めているのだということを実感するようになりました。慎ちゃんの世代の多くに、自分のようなバブル世代にはない「地の足のつき方」、頼もしさを感じる機会が増えました。
慎ちゃんも、音楽活動の最初から、メジャー資本に期待しない、インディペンデントな活動を続けていて、そのありようがとても自然に感じられました。インディペンデントであることが、特別なことではなく当たり前なんです。既成の価値観に反対を表明するまでもなく、既に新しい価値観の中で暮らし、音楽活動を続けているって言うと、ちょっと持ち上げ過ぎかな。
なんというか、自分にはない成熟や洗練を、若くして身につけているなあという気もしたんです。その一方で、年齢の割に幼さを感じる部分もあったりして、多分、目指すところは同じでも、たどってきた今までの道順が自分とは違う。そういうところも新鮮に思えたんです。
今回の作品には、慎ちゃんのような自分よりも若い世代のセンス、空気感、才能が必要でした。その感性から受けた影響を作品に反映させたかったんです。自分一人で作品をプロデュースしていたら、もっと暑苦しい内容になっていただろうと思います。

7年前に慎ちゃんと初めて出会って、彼の弾き語りを生で聴かせてもらったときに、オレは彼に面と向かって「もっとストレス感じた方がええよ」なんて、偉そうなことを言ってしまいました。ただ、それは彼の音楽を聴いての素直な感想でもあり、彼の素晴らしいセンス、才能を感じたからこその、よけいな一言でもありました。慎ちゃんもその言葉をずっと覚えてくれていたようで、最近の彼のブログで、当時の2人出会いのことを書いてくれています。素直ないい文章だと思います。

http://sasakurashinsuke.com/2014/01/26/

それから月日が流れ、3・11を経て、オレも慎ちゃんもストレスを感じざるを得ない状況に追い込まれました。そんな中で、震災、原発事故から4ヶ月経たない頃に最初のレコーディングセッションが行われました。そのセッション自体は素晴らしいものでしたが、オレはその後のアルバム制作の展望が見えなくなっていました。
そのとき、2日間行われたレコーディングのオフ日に、慎ちゃんと2人で曲作りをしました。そこで生まれた曲が、アルバムにも収録した「夜明け前」です。その曲は自分にとって、3・11以降、初めて完成させることのできた曲でした。さまざまな不安、ストレスを経て生まれた、願いを込めた1曲です。この曲が生まれることで、アルバムの制作も一歩前に進めた気がします。それでも完成までには時間を要してしまいましたが。

こうやって長々とアルバム「HOBO HOUSE」について語ってきても、まだ作品のほんの一部分しか語れていない気がして、もどかしく感じます。実際にアルバムを聴いてもらえば、ここに書かれている内容とは、また違った印象を持たれるかもしれません。ぜひ聴いて、体験してください。
このアルバムは、自分を媒体として、共同プロデューサーの笹倉慎介はじめ、さまざまな人たちとの出会い、関わりの中で、生まれた作品です。参加してくれた多くのミュージシャン全員がホントに素晴らしかった。レコーディングエンジニアのモーキー、マスタリングのコテツさんとも一緒に仕事ができてホントによかったです。レコーディングの後、夜中にお邪魔して毎回美味しいて料理とお酒を出してくれたカフェSO-SOにも心から感謝。
今の時代に生きる歌と、愛おしい一期一会を残すことができました。
このアルバムを聴いてくれた人の心の風通しがよくなったら嬉しいです。

多くの人に届きますように。 ーリクオ


























★リクオ『HOBO HOUSE』
HOME WORK (HW031) 2014年2月21日発売
¥2,835(税込)

●アルバム特設サイト

●HOME WORKからの注文

●amazonからの注文

●OTOTOYからの超高音質HQD(24bit 48k WAV)&mp3(320dpi)での有料配信。

●アルバム曲のPV
「光」
「Happy Day」