2016年7月21日木曜日

白黒を反転させないグラデーション ー 森達也監督「FAKE」を観た

公開前から気になっていた森達也監督のドキュメンタリー映画「FAKE」を、やっと観た。
語りたいことが一杯。いや、語りたい以上に語り合いたい、誰かと感想や意見を交わし合いたくなる映画だった。

噂のエンディング12分間は、期待以上だった。白黒を反転させるのではなく、あえてグラデーションを残す結末が、大きな余韻を残す。映画全体が、2極化に走る社会に対する強烈な問題提起として成り立っていて、安易な結論を許してくれない。もやもやさせされる。でも、そこがいい。さまざまな解釈を許す自由と楽しさが、この作品にはある。

映画が進むにつれて、佐村河内氏と寄り添い合う奥さんの存在が次第に大きくなってゆくのも印象に残った。この映画を2人の愛の物語として観ることもできる。あるいは、愛と信頼に支えられた佐村河内氏の再生の物語と捉えることも可能だ。
ただ、多くの感動を残しながらも、単純に感動のまま終わらせてくれないのが、この映画の真骨頂。

「さまざまな視点と解釈があるからこそ、この世界は自由で豊かで素晴しい」
映画パンフレットの中で、監督の森達也氏がこんな言葉を寄せている。
この態度は、当事者意識に欠けた厭世的態度として否定的に使われることもある「価値相対主義」とは違う、もっとリアルで丁寧、謙虚な感覚に基づいたものだと思う。
自分も、グレイゾーンを行き来し、逡巡を繰り返しながら、少しずつでも前に進んでゆきたい。この映画を観て、あらためてそう思った。

ー 2016年7月21日(木)


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