漫画「美味しんぼ」の中で、福島を訪れた主人公らが鼻血を出す描写が、放射能と因果関係を結びつけているとして問題になっている。政治家や政府までが問題として取り上げ、メディアが過剰な報道を繰り返すことで、騒ぎは増々ひろがりを見せているようだ。これを機に、放射能の影響について、立場を超え、もっと冷静に検証してゆこうという空気が生まれればよいと思うのだが、そういう方向には向かっていない気がする。その騒ぎ方をみるにつけ、立場、思想によらず、ヒステリックな世の中になってきたなあと感じる。
自分は、放射能と鼻血を安易に関連づけることに対しては否定的な立場だけれど、原発事故による放射能の影響など一切ないという立場にも組しない。どちらの態度にもヒステリックな要素を感じる。一つの立場に固執するあまり、自分の見たい景色だけを見て、全体が見えなくなってしまっている気がするのだ。今回のような騒ぎ方は、原発の問題の本質を隠し、矮小化させてしまうように感じる。
大体、原発の抱える問題は放射能だけではない。原発は、中央からの支配によって、その地域を分断し、郷土を破壊してゆくという構造的問題を抱えている。原発事故を引き起こした電力会社のずさんな管理体制や隠蔽体質も、さらに検証され責任を問われてゆくべきだと思う。原発を再稼働させるのならば、なおさらだ。
福島原発事故はまだ収束していない。廃炉までの道のりは長く険しい。汚染水の問題も解決していないし、燃料棒が取り出される前に、その地域で再び大きな地震が起こればどうなってしまうのだろうと思う。
実際に事故によって、生活を根本的に破壊された人達がたくさん存在する事実を忘れてはいけない。その中に、偏った情報に惑わされて避難した人がいたとしても、その根本の原因は原発事故にある。福島第一原発の事故は過去の出来事ではなく、現在進行形の問題なのだ。
今回の騒動を受けての原作者のブログを読んで気になったのは、「真実は我にあり」というその態度だ。なんだが、いろんな人がそれぞれの依る立場から「真実」の押し付け合いをしている気がする。そういった態度が視野狭窄につながり、二項対立を深め、問題の解決を遠ざけてゆく一因になっているのではないだろうか。互いにもう少し、「よくわらかない」という事実を謙虚に受け入れるべきではないかと思う。そして、対立しあう者としてではなく、立場や視点に違いのある「補いあう者同士」として情報交換し、対話を重ねて、問題の解決にあたることはできないものだろうか。
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