大阪 martha
「真夏のブルースサミットVol.1~往年の盟友編~」
【出演】リクオ(歌、ピアノ)/松井ヒロシ(歌、ブルースハープ)/たんちん(歌、ギター)
この日の共演者である松井さん&たんちんとは学生時代からの付き合い。2人は’80年代後半から’90年代前半にかけて、京都を拠点に、ダウンホームスペシャルというロック.バンドで活動していた。ベースレスのロックバンドをみたのは彼らが最初だった。
ドラム、ギター、ブルースハープというユニークなトリオ編成によるバンド.サウンドは本当に新鮮で、こんなにかっこよくブルースを再解釈した日本のバンド
を他に知らなかった。’90年代半ばにアメリカからジョンスペンサーが登場したときは、ダウンホームスペシャルに近いバンドが出てきたなあと思った。
自分がアマチュア時代の頃に、ダウンホームスペシャルのメンバーとは、しょっちゅう対バンしたり、セッションしたりしていた。よく飲んで、よく語り合った
もんである。でも自分がメジャーレーベルからCDデビューして、音楽を生業とするようになりはじめてからは、特にたんちんとの交流が途絶えるようになっ
た。
ダウンホームスペシャルが解散したという話は人づてに聞いた。それからドラムのたっちゃんはスティックを置いてしまったようだ。松井さんとたんちんは他に仕事を持ちながら音楽活動を続けた。
ダウンホームスペシャルが解散してから、たんちんのライブを何度か観に行ったけれど、自分が勝手に期待していたものとは違うと感じた。それからまた随分と
年月が流れた。この10数年でたんちんがオレのライブに足を運んでくれたことは一度もなかった。会うこともなくなった。けれど京都に戻れば、共通の知人達
からたんちんの噂はよく耳に入った。
たんちんとの共演は多分17年ぶりくらい。学生時代のバンド仲間で今は大阪阿波座のカフェ、マーサ
の社長である片平から「松井宏&たんちんのライブをマーサでやることになったから共演しないか」との連絡があったのが先月。急な話だったけれど、すぐに
OK。それからずっとこの日のライブを楽しみにしていたのと同時に、正直、ライブ後に一緒に美味しいお酒を飲めるのかどうかが不安でもあった。
2部構成の1部でたんちん&松井さんの演奏。客席で焼酎の水割りを飲みながら聴いた。ステージに登場した2人をみながら、そわそわしている自分に気がつい
た。でも1曲聴いて安心。2曲目くらいで嬉しくなった。かっこよかったのだ。それから後は2人の奏でる世界にどっぷりとつかり、持っていかれた。
たんちんの歌はお世辞にもうまいとはいえなかった。けれど、それはたんちんの歌ではあった。情けなさ、どうしょうもなさを、とりつくろうことなく歌い、演
奏に没頭してゆく姿は唯一の存在故に変態的にも見え、笑えるかっこよさがあった。たんちんのギターはステージが進むに連れてどんどんと自由になっていっ
た。割り切れなさと混沌が、美しく、クールに、そして野性的に奏でられていた。
松井さんは、アクロバティックなプレイには全く興味がない風で、邪念なく演奏に没頭。たった1音で世界を変えてしまう。素晴らしい集中力。歌い手としての説得力も以前より増しているように思えた。
2人の演奏はどんどん高みに上ってゆくようでもあり、深く深く落ちてゆくようでもあった。2人にしか出せないサウンド、マジックがあった。
「2人とも取り憑かれているなあ」と思った。きっと随分前にブルースとか言われるような音楽に出会い、そこに含まれている「やばいくらいにかっこよくて美
しい何か」に触れて、そいつに取り憑かれてしまったのだ。2人とも「取り憑かれ歴」が長い。他人がどう評価しようと、これしかできないんである。価値の基
準が外にない、自分の中だけにある人間は美しい。音に確信がある。
2人の視線は客席にはなかった。2人の魂はもっと別の場所に向かっているよう
に感じた。ただただ「やばいくらいにかっこよくて美しい何か」に手を伸ばし続けるばかり。客席にいた自分の魂もそっちの世界に持って行かれてしまった。他
のお客さんも自分と似た感じで、演奏に引き込まれているようだった。
1部の後半でステージに呼ばれ3曲セッション。ステージに上がるときは、自分も既にかなり取り憑かれていたから、不安もなく、導かれるまま、触発されるまま、演奏させてもらった。気持ちよかった。
音楽を生業にした自分と、他に仕事を持ちながら音楽をやり続けた松井さんとたんちん。自分はこれからも音楽を生業にして暮らしてゆくつもりだけれど、たとえ食えなくなっても、手段ではなく目的として音楽を演り続けたいとあらためて思った。
松井さん&たんちんの演奏を聴いて、文筆家の池田晶子さんが「個に徹する程普通に通じる」という逆説を語っていたのを思い出した。他にこういう文章も。
「なるほど人は食わねば生きてゆけないが、これをするのでなければ生きていても意味がない。そのような覚悟にのみ、その人の神は宿るのだという逆説を、あまりにも人は理解しない。」池田晶子著「人間自身ー考えることに終りなく」より
2部の自分のステージでは、余韻を引きづりつつも少し正気に戻った。お客さんの顔が自分の視界に入った。その笑顔と期待に応えたいと思った。またチャンネルが変わった。それもあり。いろんなやり方で繋がってゆけばいい。
アンコールでは、今度はオレが松井さんとたんちんをステージに呼びこんで、3人で再びセッション。この夜10数年振りに、たんちんと向き合って、いい会話ができた気がした。
ライブ後は、皆でとてもいいお酒を皆で飲むことができた。たんちんからは「今度、リクオのライブ観に行くわ」と言われる。
0 件のコメント:
コメントを投稿