2009年4月26日日曜日

小坂忠さんのライブを観るー「経て」ゆこう

 小坂忠さんのアルバム発売記念ライブを観るために六本木まで足を運ぶ。こんなに人通りの少ない六本木は初めてだった。特に、ライブ会場のビルボードライブのある東京ミッドタウン内は閑散としていた。不況を実感。

 小坂忠さんが70年代後半に発表したアルバム「ほうろう」は、自分にとって大切な1枚だ。そのアルバムに収録されている「機関車」は自分のアルバムでもカヴァーさせてもらっていて、今も時々ライブで歌わせてもらっている。
 「ほうろう」発表後、小坂さんはポップミュージックのシーンから退いて、信仰の道に進み、ゴスペルシンガーとして活動するようになる。2000年以降は、牧師としての活動をベースに置きながら、ポップミュージックのシーンにも復帰してマイペースの活動を続けられている。
  小坂さんのこういった経歴が自分にはとても興味深く思える。「ほうろう」というアルバムはファンキーなグルーヴ、開放感を持ちながら、一方ではとても内省 的な側面を持っている。自分はこの作品が持つ多面性、アンビバレンツな要素に惹き付けられたのだと思う。アルバムの中でも「機関車」はやはり特別な1曲 だ。矛盾や葛藤を抱え、引き裂かれている人間の切実な願い、祈りを自分はこの歌に感じる。暴力的な要素も含んだ怖くて美しい曲だ。
 この日のライブのサポートは高橋幸宏(ドラム)、小原裕(ベース)、Dr.kyOn(キーボード)、佐橋佳幸(ギター)という知る人にとってはたまらなく豪華な布陣。
 残念だったのは、小坂さんのコンディションが万全ではないように思えたことだ。シンガーとしての素晴らしさは充分に感じられたけれど、この人の集中力とかオーラはこんなもんではないはずだ。
  ただ、この日のステージで「ほうろう」の中から歌われた3曲「ほうろう」「風来坊」「機関車」は、あきらかに他の曲のパフォーマンスとは違っていた。 「HORO」の歌いだしから、いきなりスイッチが入ったような集中力を感じた。やはり小坂さんにとっても特別な作品なのだろう。
 今の小坂さんの音楽には「HORO」というアルバムを聴いたときのイメージよりも、軽やかで、明るく、包容力を感じる。矛盾や葛藤を経ての軽やかさであり、包容力なのだろう。
 自分も時間をかけて「経て」ゆこうと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿