2010年4月25日日曜日

児玉奈央ライブに飛び入り。そして日本のアコースティック系ミュージシャンについて考える。

 この日も大阪に残り、阿波座にあるカフェ、マーサでの児玉奈央ちゃんのライブに急遽飛び入り。セッション曲は、ニーナ.シモンのナンバーからジャズのスタンダート、ブルース、高田渡さんのナンバーまで、幅広い選曲。ほんと楽しかったなあ。
 奈央ちゃんと最初に出会った頃、彼女はまだ二十歳前後だったと思う。彼女とサケロックの星野源君がPolypというユニットを組んでいた時期があって、 自分は2人のレコーディングを手伝ったことがあるのだけれど、そのときに2人が録音していた曲が「穴を掘る」。すっかりその曲を気に入って、その後カ ヴァーさせてもらい、今も自分のライブでは定番の曲。
 実は奈央ちゃんのワンマンライブをじっくりと聴くのは今回が始めて。出会った頃からとても素敵な声をしていたけれど、時を経て、ほんと素晴らしいシンガーソングライターに成長したことを実感した。歌詞にも言霊が宿っているような力を感じた。
 サポートメンバーの伊賀航くん(ベース)、長久保寛之くん(ギター)のプレイもとてもよかった。
 日本にもいい演奏者がたくさんいるなあ。

 昨日のおおはた君とこの日の3人の演奏&歌に共通しているのは、音を立体的にとらえて楽器と声を響かせることができる、演奏に息つぎ、間があるというこ と。そしてリズムに自覚的。アコースティックな弾き語りでもファンキーな乗りがあって、体が揺れるのだ。こういう力を備えたアコースティック系のミュージ シャン、シンガーソングライターが、日本でも随分増えてきたと思う。これはオリコンチャートの左側に入るJ-POPとはまた違った動きだ。
 ミュージシャンを輩出する一つの要因になっているのは、ライブ環境の変化だと思う。自分がライブ活動を始めた80年代半ば頃の演奏場所は、ほとんどライ ブハウスで、ロックバンド使用の音響チューニング、モニターシステムの中で演奏することがほとんどだった。あくまでも大音量のバンド使用を想定した空間だ から、アコースティック楽器の生音や空気感、奥行きを生かした演奏、音作りを目指すのには、必ずしも適した場所ではなかったように思う。
 しかし90年代のクラブムーブメントを経て、90年代後半から、ライブハウスやクラブ以外の場所、普段は飲食経営を基本とするカフェやバーなどがライブ を企画するようになって、アコースティック系のミューシャンがそちらに流れてゆくようになった。
 ライブハウス以外のカフェなどにアコースティック系のュージシャンが集まり出した要因はいくつかある。まず、そういう場所は無名の演奏者であっても、ラ イブハウスのように、チケットノルマを課したりしない。演奏者側へのチャージバック率はライブハウスよりもずっと高くて、7割バックは当たり前、店によっ ては全額バックのお店もある。なぜ、そういうことができるかというと、お店が基本的に飲食で成り立っているからだ。
 飲食で経営が成り立てば、店側のやりたいライブだけを企画すればいい。無理にブッキングを埋める必要もない。ライブの数が少なければ、店側が一つのライ ブに集中して告知宣伝できる。お店がお客を呼んでくれて、ギャラもライブハウスよりもらえるとなれば、カフェやバーの方に演奏者が流れてゆくのは当然だ。
 カフェやバーはほとんど100席未満のキャパ。50席前後のお店が最も多いかと思う。そういう場所では、ライブハウスのような本格的なPA、照明システ ムを導入するとこは難しいし、あまり必要がない。アコースティックで小編成のスタイルなら簡易なPAシステムで充分演奏可能。よってモニターシステムさえ ないというお店も多い。
 演奏者は、モニターPAに頼らないことで、楽器を生音で鳴らす、響かせる、生音でアンサンブルのバランスを取るということに自覚的にならざるを得ない。この状況が結果的に演奏者の耳と演奏力を鍛えてくれることになった。
 自分よりも若い世代のアコースティック系ミュージシャン、例えばハンバートハンバートの2人とリハーサルしたとき、彼らはその場の一切のPAシステムを 使おうとしなかった。歌とアコースティック楽器によるアンサンブルなのだから、確かにわざわざマイクやアンプに通す必要もないのだ。
 バンバンバザールの3人なんて、ツアーで移動中のライトバンの中や楽屋でリハーサルをすましていたりする。そういう演奏者はライブハウス育ちの演奏者とは楽器の鳴り方が違うし、フットワークが軽くて、精神的にもたくましい。
 もちろんライブハウスと呼ばれる場所の役割が終わったと思っているわけではない。ただ、そういった場でフォローしきれなかった表現や才能が、違う現場で 育まれているということ。ライブハウスのあり方も変化し続けていて、下北沢440のようにカフェ&バーの要素を含んだライブハウスも存在するようになっ た。
 日本の音楽シーン全体のことはわからないけれど、状況の変化に応じて、さまざまな現場で新しい才能が育まれていることは間違いないと思う。自分もそういう新しい才能に触れて、若い生き血をどんどんと吸っていけたらと思う。

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