6月3日(火)伝承ホールで行ったアルバム発売記念スペシャル・ライブは、アルバム「HOBO HOUSE」の制作が始まってからこの日に至るまでの流れを集大成するようなステージになった。ライブから2週間以上が経過しても、まだ余韻が残っている。やっぱり、この日のステージのことを、自分なりにちゃんと文章にまとめておかなくちゃと考えて、遅ればせながらブログにアップすることにしました。
ミュージシャン、スタッフ含め、自分の1回のライブために、これだけ多くの人達に関わってもらったのは、自分が90年代にメジャーレコード会社に所属していた時以来だと思う。ベースで参加してくれた寺さん(寺岡信芳)が自身のブログの中で、この日のライブを、皆と一緒につくりあげた「総合芸術」だと語ってくれていたけれど、同感だ。この日のアンサンブルは自分の演奏キャリアの中でも、最高と言っていいクオリティーだった。随分前から伝承ホールを見据えて、準備を重ねてきた甲斐があった。
この日のライブは、いわゆるセッションとはまた違う、さまざまな準備と段取りがあった上で成り立った一期一会だった。ホール公演だからこそ、こういうステージが実現できた部分も大きい。
自分は終始、大きなグルーヴに身を委ねるような心持ちで演奏し、歌うことができた。変に思われるかもしれないけれど、時にはバンドメンバーが奏でる一音一音が目に見えるような、そんな感覚を持った。
「HOBO HOUSE」のレコーディングを始めた当初から、自分が目指すサウンド、アンサンブルの方向は、かなり明確だった。演奏者が互いの息遣いを感じながら、奏でられる全ての音の響きを生かし、平面ではなく立体で音とらえる。歌を中心に、あらゆる音が絡み合い、支え合い、響き合うことで成り立つアンサンブル、ゆったりとしたグルーヴ。柔らかな自然光や木の響き、風の声を感じさせるサウンド。
それは、世の中を取り巻く状況に対する生理的な違和感から生まれたサウンドとも言えるかもしれない。こういった志向を、レコーディングにおいても、ライブにおいても、参加してくれた全ての演奏者が理解し、実践してくれた。
伝承ホールのステージでは、すべての演奏者が最高の聴き上手だった。大所帯でも、それぞれの音がよく聴こえているから、音がバッティングしない。例えば、多くのドラマーは、自分一人でグルーヴをつくろうと力み過ぎて、音を埋めてしう傾向に陥りやすいのだけれど、椎野さん(椎野恭一)のドラムは、力みなくスペースを生かし、他の楽器と絡み合い響き合い、間を共有することでグルーヴをつくってゆく。音量のバランスとダイナミズムの付け方も絶妙だ。「HOBO HOUSE」制作からの流れで自分が目指してきたのは、こういう「引き算の演奏」だ。
こういった演奏力は、表面的な楽器のテクニックだけではなく、生き方や人間性にも関わるものだと思う。「ガッツ」を持っていることは大前提。でも、それを押し付けない。我欲を超えて互いを尊重し、最高の音楽のための一パーツになることで、それぞれの演奏者の個性がより引き出され際立ってゆく。そういう逆説が起こり得るのだ。
この日、聴き上手であったのは演奏者だけではなかった。照明、PAスタッフ、お客さん、恐らくその場に立ち会った全ての人達が、最高の聴き上手であった。その態度が心地良いエネルギー循環をもたらし、皆が愛おしい一期一会の担い手になり得たのだと思う。日常生活での人や自然との関わりにおいても、このような態度でありたいものだ。
ライブは発見と体験の宝庫であることを、今回のバンドメンバーとのツアーを経て、あらためて実感させられた。自分は人生の大切な多くを、ステージ上で、音楽を通じて、今も学び続けている。
そのような発見や体験は、さまざまな人達との関わりがあってのことだ。いい出会いに恵まれているなあと思う。
来てくれたお客さん、関わってくれたミュージシャン、スタッフの皆さん、本当にありがとう。
これからもお付き合いの程よろしくお願いします。
★6/3(火)渋谷・渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
リクオ・ソロアルバム「HOBO HOUSE」発売記念スペシャルライブ
【出演】リクオ(歌&ピアノ)
サポート:笹倉慎介(ギター&コーラス)/椎野恭一(ドラム)/寺岡信芳(ベース)/宮下広輔(ペダルスティール)/橋本歩(チェロ)/阿部美緒(ヴァイオリン)/真城めぐみ(コーラス)