夕方、スタジオでのリハーサルを終えた後、カフェに立ち寄り、コーヒーをすすりながらパソコンを開き、’11年3月11日以降にアップした自分のブログを読み返した。
当時の記憶と気持ちが少しずつよみがえってくるのを感じた。不安、哀しみ、怒り、後ろめたさ、後悔を含んだ、なんともやりきれない思い。当時の感情のすべてを思いだしたくはない。つらくなるからだ。けれどそのつらさは、被災して身内や知人を失った人達、放射能汚染によって故郷を離れざるをえなくなった人達のそれに比べれば軽い。
先月、地震による津波で甚大な被害を受けた南三陸と石巻を訪れたときに、地元の知人達が口々に「3月11日が近づくと心が重くなる」と語っていたことを思いだす。あまりにも悲しくつらい記憶は、忘れたくても忘れ去ることができないのだ。3月11日に思いだすべきは、他人事として日々を過ごしがちな自分であり、あなたなのだろう。
今から3年前の2012年3月11日にブログにアップした文章を、再び掲載します。東日本大震災から4年を経て、前ばかり向くのではなく、立ち止まり振り返り、問い続けることの大切さを感じています。
●2012年3月11日(日)1年を経てー「希望」のための告白
「自分は、被災した人達と、思いを一体化させることはできない」
わかっていたはずのことだけれど、昨年5月、震災後に初めて、被災地である石巻、女川、南三陸を訪れた時に、あらためてそのことを思い知りました。あまりにも大きな哀しみや絶望を受けとめるだけの想像力と心の容量を、自分は持ち合わせていませんでした。感情移入し過ぎると、自分が壊れそうな気がしました。
この世は、あまりにも不条理に満ちていて、それらすべてを直視し、受け入れて暮らすことは、困難です。世界中の絶望に心のチャンネルを合わせることは不可能です。他者への想像力の大切さを感じる一方で、その想像力にリミッターがかかってしまうことがあるのも、仕方がないように思います。
人は極度の不安と緊張に、長く堪え続けることはできません。だから、事態が収束もしていないのに、忘れようとしてしまう。オレもそうです。
けれど、不安や絶望、矛盾に向き合わなければ、見いだせない希望があります。希望なしには人は生きていけない。だから、絶望に心のすべてを取り込まれないよう気をつけながら、その先の光に目を凝らさなければいけない。力み過ぎず、焦り過ぎず。
「人は互いに寄り添わなければ、生きていけない」
そのことも被災地で強く感じました。そこでは、多くの人達が助け合い、いたわりあって生きていました。現地でのボランティアの皆さんの活躍には、頭の下がる思いでした。音楽を通して、被災地の人達と、ほんの少しでも繋がれたような気がしたことは、自分の救いになりました。震災後のやりきれない思いの中で、自分は音楽によって何度も救われました。
そんな自分の行動には、自己満足や偽善も含まれていたと思います。被災地に何度も足を運んだ動機の一つには、「何かすることで、まとわりつく『後ろめたさ』を解消させたい」という都合の良い自分本位な思いがありました。高揚がおさまると、そういった自分の不純や矛盾に気づくことがありましたが、そのことで必要以上に自分を責めることは、やめるようにしました。行動には、そういう不純な動機も含まれるものだと思って、開き直ることにしました。ただし、これから生きてゆく上で、「後ろめたさ」とは、付き合い続けようと思います。
人は「孤独」を抱えて生き続けることはできても、「孤立」に堪え続けて生きることはできないと思います。自分達の他者への無関心が、多くの人を孤立化させるだけでなく、結局、自分自分も孤立化させてしまうのだと思います。だから、しんどくても、その想像力のリミッターをはずさなければいけないときがあります。
そのときに、きっと自分自身の心も傷つきます。だから心が壊れてしまわないよう、自分自身をいたわることも忘れずにいようと思います。
最後に、去年(2011年)の3月16日のブログに掲載した詩を、あらためて掲載します。
この詩を書いた時の自分は、東北から離れた場所にいて、不安と絶望に心を苛まれていました。被災した人達のことも想いました。自分の無力さに、やりきれない気持ちで一杯でした。そんな気分の中で、言葉を探し、メロディーを思い出そうとしたのは、つまり、どうにかして「希望」を見いだしたかったからです。そのときの思いを忘れずにいようと思います。
一体にはなれなくても、繋がりたい。方々を巡りながら、その方法を探し続けてゆくつもりです。
ーリクオ
しばらくテレビのニュースを消して、パソコンも閉じて、心を鎮めてみる。
自分の弱さ、脆さを嘆くのはやめる。認めてやる。
そらしゃあない。
自分にとって大切なものは何?
つないだ手のぬくもりを思い出す。
忘れかけていたメロディーを口ずさむ。
少し無理をしてバカなことを言ってみる。
結構受けた。
笑顔にほっとした。
自分の中にあった優しさを思い出す。
希望を思い出す。
勇気を思い出す。
新しい暮らしが始まる。
新しい生き方を探す。
一人ではなく。
哀しみを忘れない。
後悔を忘れない。
後ろめたさも忘れない。
でも、引きずらない。
力み過ぎない。
祈り続ける。
歌い続ける。
新しい言葉とメロディーが生まれる。
呼吸を整えて、元気を出す。