オールドタイムはJR和歌山駅から歩いて10分程のネオン街の中にあるので、
夕方以降、オールドタイムに向かう多くの人はポン引きの誘いを受けるこにな
る。僕がこのお店に年に1度程の割合で通うようになってもう10年くらい経つ
と思うのだけれど、その間ずっと僕に声を掛け続けているチョビ髭の親父がい
る。きっと向こうは僕の存在など全く意識していないだろうけれど、僕はその親
父に声を掛けられることをちょっとした楽しみにしている。この日も僕は無事、ちょび髭親父と再会を果
たすことができた。元気そうでなにより。この日は入り時間に遅れてしまったので、リハーサルをさっさとすまして、ライブ直前まで近くの喫茶店で過ごす。リ
ハーサルの後は大抵、茶店でぼんやりくつろぎながらその日のステージの流れをなんとなく頭に想い描いたりするのだけれど、この日はツアーの疲れが出て、頭
が働かなかった。まあ、一人のステージだから本番で決めればよいと開き直って、本番直前まで窓際の席でぼんやりと外の風景をながめながらだらだらと過ご
す。
店に戻った頃にはもうNUIT LOVEさんのピアノ弾き語りステージが始まってい
た。横須賀からツアーで和歌山にやってきた彼女は、この日の僕のライブを観るために、わざわざ滞在期間をのばしてくれたそうで、マスターの松本さんの提案
もあって急遽、オープニングアクトをつとめてもらうことになったのだ。ラグタ
イムやジャズの影響を受けたピアノも良かったけれど、何よりも歌がよかった。
抑え気味の唱法なのだけれど、その中にとても濃密な想いが込められているのが
伝わってきた。
この日はステージに上がった瞬間からお客さんの期待感を含んだいいオーラが伝 わってきて、自分の中でスッとスィッチが切り替わった。疲れなんてどこかえ消
えてしまった。それからエンディングまで、ずっと流れに身をまかすイメージを保ちながら演奏することができた気がする。お客さんも自分の掌にうまく乗って
くれた。
歌唱、演奏、パフォーマンス、どれをとっても最近のライブのなかではベストのステージができた。特に歌唱に関してはこの日に何か一つのきっかけをつかんだ
ような気がする。その感じをうまく言葉に現わせないのだけれど、歌いながら 「これだ」という実感があったのだ。とにかく、この日のステージで歌い手とし
ての欲が深まった。 打ち上げの小料理屋で食べたお惣菜がとても美味しかった。ツアー中にこういう 食事ができるとほっとする。この店のママのミキちゃんが分けてくれたちいさな
ミカンもとても甘くて美味しかった。
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