16日に京都の実家で大文字の送り火を見た翌日、東北の福島市に向かい、福島駅近くで開催されたサーキット形式の街フェ
ス「福島クダラナ庄助祭り」に参加させてもらった。イベントの首謀者は、ミュージシャンのマダムギターこと長見順さん、ギターパンダこと山川のりをくん、
そして漫画家のしりあがり寿さん。この3人が関わっているだけあって、他のフェスではお目にかかれないであろう実に多彩で個性的なアーティストが福島に集
まった。
今の福島であえて「意味のないくだらないことをやる」には、それなりの信念や決意が必要だったに違いない。けれど、自分の見た限り、このフェスには、信
念とか決意とかいった堅苦しい言葉がちっとも似合わないユルい空気がそこかしこに漂っていた。まさに、その空気こそが、このフェスの目指そうとしたもの
だったのだろう。
自分も、この日は、いつも以上に堅苦しいこと抜きに、楽しいステージを心掛けるつもりではいたけれど、あの曲は避けて通るわけにはいかなかった。東北の
地で「アリガトウ サヨナラ 原子力発電所」を歌うのは、この日が初めてだった。集中して、力み過ぎず、想いを込めて、歌うことができたと思う。
YouTubeでこの曲を公開して以来、東北に暮らす何人もの知人から連絡をもらった。彼らの曲への感想を通じて、3.11以降、東北に暮らす人々が抱え続けている想いの一端を知ることができたような気がした。
福島県いわき市のライブハウスSONICのスタッフでもあるシンガーソングライターの三ヶ田圭三君は、この曲をライブでカヴァーして東北各地で歌ってく
れているそうだ。三ヶ田くん以外にも、数人からこの曲を歌いたいとの連絡をもらった。どんどん歌ってもらいたい。
山口洋のセッティングで4年前に熊本で1度だけ共演させてもらった大先輩ミュージシャン野田敏(ex.メインストリート)さんから、先日、思いがけない
電話をいただき、「アリガトウ サヨナラ
原子力発電所」への感想を聞かせてもらった。「こういう歌を歌ってくれる人は今迄いなかった。歌ってくれてありがとう」敏さんから、こんな言葉をもらっ
て、とても勇気づけられた。
6月に曲を書いて公表して以来、曲を通して、さまざまな想いに触れ、いろいろと考えさせてもらっている最中だ。そのことによって、歌への向き合い方にも
変化が生まれ、自然、歌唱法も、短期間で随分と変わった。今は、歌い始めた当初より、もっと静かな気持ちで歌に向き合っている感じ。歌に込める祈りの要素
が強くなった気がする。そういう期間を経ていたから、フクシマでも意識過剰になることなく、落ち着いて歌えたのかもしれない。
うだるような暑さの中で、この日の福島市街は、平静を装うように落ち着きはらって見えた。線量の高さは目には見えないのだ。福島に来て、なるべく地元の
人達の話を聞きたいと思っていたのだけれど、やはり1日滞在したぐらいでは、福島の現状は把握できないと思った。
イベント会場で出会ったある東北の被災した街で暮らす知人は、自分に会うなり、地元の厳しい状況を吐き出すように話し続けた。「3.11直後は皆が協力
し合っていたけれど、余裕のない状況が続く中、次第にそれぞれの立場に違いが出てきて、『絆』という言葉が空々しく響きはじめている。」そんな話だった。
原発事故の影響で線量の高い東北の街で暮らす知人からはこんな話を聞いた。「今、地元で自分の考えを述べることには、とても慎重になる。特に原発の話
は、同じ街に住んでいても、それぞれに立場、考えの違いがあるので、どうしても同じ考えの人同士でばかり話すことになる。」つまり、立場の違う者同士が、
議論、対話することが難しい状況だというのだ。
これらの話を聞かせてくれた人達は、その状況をただ受け入れて嘆くだけでなく、どうにか変えてゆきたいと願い、自分なりのやり方で動き続けている人達
だ。自分は、彼らとの出会いを大切に、良き時間をシェアすることで、場をつなぎ、縁をつなぎ続けてゆけたらと思う。これからも何度でも東北に戻ってくるつ
もりだ。
9月末からはバンバンバザールと、10月後半からは、ケイヤンと一緒に東北をツアーする予定。最高の空気を集まった皆さんと一緒につくりたいと思う。
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